東京慈恵会医科大学・総合医科学研究センター
医用エンジニアリング(ME)研究部
The Jikei University Medical
Engineering

次世代医療
医療のミライを変える
エンジニアリング

選んで はこぶ
カラダと共生するマテリアル

目の前の患者様に医療を行うのは医師ですが、
その背後には過去の医学知識と医療技術の膨大な集積があります。
その集積のなかで医用工学がもたらしたものは少なくありません。
当研究室は、ナノサイズのバイオマテリアルと画像診断技術を核として、
がん・脳梗塞の診断と治療の新規医療技術の創出を行います。

医療×工学医療エンジニアリング研究部の起源

時代の流れ

1901年
ポールエールリッヒのMagic Bullet(魔法の弾丸)の提唱
1959年
リチャードファインマンの米物理学会での講演「There’s Plenty of Room at the Bottom」ナノテクの始まり
1960年代
DDSの提唱(米国)
1971年
Judah Folkmanによる固形腫瘍における血管新生とその阻害による制癌手法の開発
1978年
Controlled Release Society(米国)設立
1985年
日本DDS学会設立
1986年
Enhanced permeability and retention(EPR)効果(前田・松村)による固型がん組織への高分子抗癌剤のターゲティング
1990年
アドリアマイシン(ドキソルビシン)封入高分子ミセルの薬物ターゲティング
1992年
世界初高分子ミセル製剤開発
2000年
米国National Nanotechnology Initiative宣言(クリントン大統領)
Statementのうち一つ“Using gene and drug delivery to detect cancerous cells by nanoengineered MRI contrast agents or target organs in the human body”

医療×工学医用エンジニアリング研究部の研究起源Three origin stories

超微細な世界での技術
ナノテクノロジー

物質をナノメートル (nm, 1 nm = 10−9 m)の領域すなわち原子や分子のスケールにおいて、自在に制御する技術。ナノテクと略される。そのようなスケールで新素材を開発したり、デバイスを開発する。

ナノメートル(nm)は1メートルの10億分の1

1959年
米ノーベル賞受賞者
リチャード・フィリップ・ファインマン

米物理学会での講演「There’s Plenty of Room at the Bottom」
「ナノスケール領域にはまだたくさんの興味深いことがある」
原子数個というナノスケール領域では、マクロな世界とは全く違う性質が現れるだろう。その研究を行うことは、人類にとって大変重要なことであり、将来は原子を1つずつ配置して思い通りの物質を作れるようになるだろう。

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魔法の弾丸
DDS
(ドラッグデリバリーシステム)

ナノテクノロジーを駆使して、薬を必要な場所で、必要な時に、必要な量だけ機能させる。DDSの目標は、全身の血流を巡る薬を、目標部位の目的細胞のみに集積させ、機能させること。

1900年
ドイツのノーベル賞受賞者
パウル・エールリヒ

細胞は、染色することで、内部構造をふくめ詳細な観察が可能となった。それを推し進め、ある臓器の細胞や病原微生物を染めるといった染料の特異性を利用し、病原微生物のみを殺す化学物質、すなわち『魔法の弾丸』を探し出すことができる。

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“免疫との共生”を
考える

我々の体を監視し、外敵から守っているのは生体防御を司る生体の免疫システム。生体の免疫応答を知ることは、薬剤開発はもちろんのこと生体機能材料開発において非常に重要である。

“物質共生領域”

近年では抗体医薬、核酸医薬、細胞医薬などを含め、様々な創薬モダリティが誕生しています。しかしながら、我々が体にとって最適と考えられる最先端医薬品を開発しても、われわれの体はそれらを異物(非自己)として捉えています。これを解決するために、バイオマテリアルとして生体親和性材料を用いることが試みられていますが、それらも異物(非自己)として認識されてしまいます。一方、母体は自己と完全に異なる個体であるはずの胎児を胎盤というシステムの中で“適切な“コミュニケーションを取り、許容していると考えられています。
では、“適切な”コミュニケーションとは何なのでしょうか?そして、われわれの体は非自己である医薬品や生体親和性材料の何を見て、異物として捉えていると考えられるでしょうか?これを分子の化学構造だけでなく、周囲環境における分子の挙動などに着目することでわれわれの体にとって“適切な”コミュニケーションを明らかにしていきます。

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医療のミライを変える研究紹介

医療のミライを変える研究紹介ナノサイズで
“選んで、はこぶ”

ナノサイズで “選んで、はこぶ”

“選んで、はこぶ”は
ミライを変える

1. がん治療のミライ

患者個人に適したオーダーメード治療
造影剤を搭載し、微小ながんを早期に診断

2. 脳梗塞治療のミライ

血液脳関門の破綻を画像診断し、
病態進行を解析する

3. その他のミライ

“選んで、はこぶ” は ミライを変える

1. がん治療のミライ

患者個人に適したオーダーメード治療
MRI造影剤を搭載し、微小ながんを早期に診断

TOPIC:固型がん治療

がん細胞が固型がん組織を形成し、自らが広がっていくためには栄養が必要である。その栄養(酸素)は血管から運ばれてくる。初期のがん細胞群は、既存の血管で十分に栄養が足りているものの、その数が増大し、体積が大きくなることによって、既存の血管では栄養が行き届かなくなる。この時、がん細胞は血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を産生することで、自身の細胞群に向けて血管の新生を促し、栄養を送り込めるようにする。これががんの新生血管(angiogenesis)と呼ばれる現象である。即ち、このVEGFを阻害し、血管新生を抑制すればがん増殖を抑えられると考えたのがJudah Folkmanである。

1986年に、がんの新生血管の特徴的な性質、即ち、透過性の高い血管構築とがん組織におけるリンパ系の未発達な状況において、特定の大きな分子ががん組織にとどまりやすい性質Enhanced permeability and retention (EPR)効果を利用した手法、即ち、高分子製剤による抗がん剤のターゲティングという領域が示された。

1992年に、当時の主流抗がん剤であったドキソルビシンと高分子からなるナノサイズミセル「高分子ミセル製剤」が開発され、1994年に抗がん剤ターゲティングがEPR効果の概念に基づき、非常に良好にターゲティングされ、抗腫瘍効果を得ることが見出された。

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“選んで、はこぶ” しくみ

高分子ミセルによる
キャリアシステム

ナノサイズ(10-100nm)の分子デバイスを
患部に選択的に運搬し、働かせる

TOPIC 01:高分子ミセルキャリアシステム

高分子ミセルとは、低分子ミセル(石鹸)をより安定化させたナノサイズの粒子のことであり、一般的には、水に溶けやすい(親水性)分子鎖と溶けにくい(疎水性)分子鎖の両方の性質を有する高分子からなります。水中では高分子鎖の自己凝集作用(疎水性相互作用や静電相互作用)によってナノサイズの高分子ミセルが形成されます。

TOPIC 02:高分子ミセル治療製剤

抗がん剤はin vitro(ディッシュ)上でがん細胞に対する殺細胞効果が高い薬ですが、水への溶解性が低いことが多い。この抗がん剤の難水溶性の性質は、体組織の70%以上が水であることを考えると致命的であり、体内に入るとわれわれの体から異物として見つかり、排除されやすく、分子量が小さな抗がん剤は血液中から速やかに出てしまうため、その効果を発揮する時間が限られてしまいます。また、溶解させるために使用される溶解剤も問題になります。
高分子ミセルは、これらの問題を解決できる性質を有しています。高分子ミセルは難水溶性の抗がん剤を自己会合の際に同時に同所に封じ込めることができます。高分子ミセルに内封された抗がん剤は、高分子ミセルの安定化に寄与し、一方で、高分子ミセルによって隠された抗がん剤は、高分子ミセルの薬物動態に依存し、疾患部位への到達効率を高めることができます。

TOPIC 03:高分子ミセル診断薬

DDSは製剤の最適化を行う学問分野であるが、治療のためには、疾患の有無や疾患の状態を知る必要がある。ナノサイズMRI造影剤は、現在、使われているMRI造影剤では検出が困難な疾患部位の状態の描出を可能にする造影剤である。

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医療のミライを変える研究紹介カラダとマテリアルの
適切なコミュニケーション

“カラダと共生するマテリアル” は
ミライを変える

“カラダと共生するマテリアル” は ミライを変える

“カラダと共生する
マテリアル”のしくみ

生体分子と共生するミライを考える

TOPIC:合成高分子と生体分子との弱い相互作用を起点とする生体応答

我々の体を監視し、外敵から守っているのは生体防御を司る生体の免疫システムである。生体の免疫応答を知ることは、薬剤開発はもちろんのこと生体機能材料開発において非常に重要であることは容易に想像がつく一方で、生体親和性高分子と免疫応答との関係は、実はよく分かっていない。我々のもつ免疫システムは抗体の多様性という観点から非常に高い感度で、生体親和性高分子のような分子を察知していることも明らかになっている。

“カラダと共生するマテリアル” は ミライを変える

免疫システムと共生する
テクノロジーの開発

TOPIC:DDSキャリアと免疫との関係

抗がん剤の性質を隠すために、高分子ミセル製剤を含めて、ナノサイズの製剤はその構造体(ミセルなど)に、生体分子(血清たんぱく質、免疫細胞等)との相互作用が非常に弱く、見つからない性質、即ち、生体親和性高分子が必要とされる。生体親和性高分子としてポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)や生体の自己細胞膜成分であるホスホリルコリン基を有するMPCポリマーなどが挙げられる。

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医療のミライを変える研究紹介疾患発生の
メカニズムを探求

アルツハイマー症候群
治療のミライ

TOPIC:開発診断薬の特徴をいかした
疾患部位の病態生理評価

治療目的や疾患の有無を知る(診断する)ことともに、疾患発生の種となる現象に目を向ける必要がある。例えば、脳神経疾患の一つであるアルツハイマー病はAβの脳組織内の沈着が神経細胞に損傷を与えることで、脳神経回路に問題を生ずる。しかしながら、Aβは疾患の結果に表れ、神経細胞に損傷を与える原因物質であるが、アルツハイマー発症の直接的な原因であるかは解明されていない。なぜ、Aβが脳組織内に沈着してしまうのか、それは物質を輸送する血管に原因があると私たちは考えており、これらをイメージング手法や化学の手法を用いて解明することを検討している。

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